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2006年(平成18年)9月1日

「欠落」


 それはほんのささいな一言がきっかけだった。
都内のとあるライブ会場で行われたアイドルイベントでのことだった。
何組ものアイドルが歌いそしてそれぞれのファンが歌に合わせてコールする。
私は目当ての子が出てくる前にドリンクを取りに行こうと一旦後ろに下がった。
後ろではプロダクション関係者がなにやら雑談をしている。
私がドリンクを飲んでいるその横で関係者らはファンがシャウトする様子を見ながら徐にこう言い放った。
「気持ち悪りぃなー」
まあ確かに汗もかいていないのにウェット感全開の人は多いかもしれないけども
それにしても気持ちが悪いとはどういうことだ。
あなた達の給料になる興業収入は一体誰が支払っているのかわかっているのか
まるで自分達が偉い人かのような振る舞いかたである。
だが確かに気持ちはわからんでもない。

 一般的にオタクと呼ばれている人達が差別的な扱いを受けているのは
ある種異質なオーラを発しているからに他ならない。
ベタベタした手で握手をしながらサマディの呪文らしきものを
ブツブツと唱え続ける同士ガマガエル。
常に「ウゥー」「ウウウー」と言いながら手書きの詩集を差し入れることで
カルマの境地を見い出した同士ウシガエル。
気恥ずかしさなどみじんも感じさせないその同士達の力強いチャクラの前には
さしものアイドル達も笑顔がひきつる。
そんなアクの強い彼らだが実はイベントに集まる多くの同士と同じく
アイドルと同じ時間を共有することで得られる満足以外のことは
初めから求めてはいないのである。
中には自分だけを特別視してくれなければ気が済まないと思っている人もいるが
純粋なファンというのは楽しみながら支援していく人のことである。

 気持ち悪りぃなーと言っていたあのプロダクション関係者は
同士達のことを何かが欠落している人扱いしていたが、本当に欠落しているのは
純粋に応援している人を見極めることができない人達のことであろう。




2006年(平成18年)8月1日

「伝え忘れたこと」


 私が15年間東京に住んでいて学んだことと言えば
新聞とNHKと宗教の激しい勧誘から身を守る方法と
新宿歌舞伎町のさくら通りを歩いていても
ボッタクリのポン引きから声を掛けられない方法と
大手町で乗り換えができるようになったことである。

 東京というのは本当に怖い街である。
むやみに人を信用したりしているととんでもない目に遭わされたりする。
ただのガラス玉の指輪に何十万ものローンを組まされたり
ボッタクリ店で身ぐるみ剥がされて車で連れまわされ
キャッシュカードの金を全額引き出され、知らない街に放り出されるのである。
大手町に至っては散々ぱら歩きに歩かされた挙句
出口だと思って改札にきっぷを入れても改札から出してもらえないのである。
特に地方から上京してくる人は純粋無垢な人が多い。
またそういう人というのはとにかく人がいいもんだから
一目見ただけですぐにわかってしまう。
一度目をつけられてしまったらもう奴らの格好の餌食だ。
最初は仏様みたいな優しい顔をしていたのに
悪い人に騙されていくうちにみるみる悲壮な形相に変わっていく。

 昔バイトをしていた会社にM子という友達がいた。
お人好しで器量良しでしかもなかなかの美人でよく男に言い寄られるタイプだ。
よく同僚の子と3人でお昼を食べに行ったり飲みに行ったりしていた。
ある時その同僚の子と二人でM子のアパートに遊びに行った時にある事に気が付いた。
新聞を3社も取っている。
「なんで?」と聞いてみると「毎日勧誘に来るから断われなくて」という。
「これはもしや?」と思いつついろいろ話しを聞いてみることにした。
まあだいたい優しくて人の言うことを何でも聞くタイプというのは
おのずと主従関係というものが成立するもので
征服欲のない男というのもまずいないものである。
案の定付き合い始めた彼氏が暴力をふるうようになったという話まで飛び出した。
ちょっとでも自分の言う通りにならないものなら手を出すのだそうだ。
「やれやれ、飛んだ話を聞いてしまったものだ」
結局俺が何とかすることになってしまった。
それから連日昼休みに3人でミーティングを重ね、
俺がM子の兄貴のフリをして新聞販売店に解約に行き
その暴力男にも兄貴のフリをして会うことになった。
人を おどす 説得することにかけては悪い友達直伝のセリフがあり
それをマネするだけでいいのでたいして困りはしない。
こっちはかなり意気込んで万全の体制で望んでいたのに
実際奴はホントにそうなの?というくらい聞き分けがよく
すんなりと別れさせることができてしまったので意外とショボくて完全に拍子抜けしてしまった。
そのあとしばらくしてからお互い会社を辞めて散り散りになってしまったので
どうなってしまったのかわからないままだったけど
何年かしてから偶然街でM子とばったり出くわしたことがあった。
M子は僕達が全く知らない人と結婚していた。
びっくりついでに当然気になったのでもうほとんど質問バッタのように
「大丈夫かね?」とか「うまく行ってるの?」とかいろいろ聞いてみたが
幸せそうにしてるみたいでなんだかホッとした。

 これからも東京に憧れて田舎から上京してくる人とかいっぱいいると思うけど
私がせっかく東京で学んだいろんな事、誰かに伝えておけばよかったかな。



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